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福岡地方裁判所久留米支部 平成6年(ヨ)11号 決定

債権者

有限会社サンレイ

債務者

ナカムラ産業株式会社

当裁判所は、債権者において、金四〇〇万円の保証を立てることを条件として、次のとおり決定する。

主文

一  債務者は、別紙物件目録記載の物件を製造し、販売し、販売のために展示し、又は輸入してはならない。

二  債務者の前項記載の物件に対する占有を解いて、福岡地方裁判所久留米支部執行官に保管を命ずる。

三  債務者は、別紙標章目録表示の標章を第一項記載の物件及びその包装に付し、又はこれを付した同項記載の物件を販売し、若しくは販売のために展示してはならない。

四  債務者の前項記載の標章を付した第一項記載の物件及びその包装に対する占有を解いて、福岡地方裁判所久留米支部執行官に保管を命ずる。

五  訴訟費用は、債務者の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  債権者(申立ての趣旨)

主文一ないし四項と同旨

二  債務者(申立ての趣旨に対する答弁)

1  債権者の本件申立てをいずれも却下する。

2  訴訟費用は債権者の負担とする。

第二当事者の主張

一  債権者の主張(申立ての理由)

1  債権者は、次の(一)記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件実用新案」という。)及び(二)記載の商標権(以下「本件商標権」といい、その商標を「本件商標」という。)を有している。

(一) 登録番号 登録第二〇〇九〇一九号

考案の名称 墓前用石造ローソク立て

出願日 昭和六二年三月四日

公告日 平成五年七月一日

登録日 平成六年三月九日

(二) 登録番号 第二五〇四二九八号

商標 防風灯

出願日 平成二年八月三一日

公告日 平成四年六月二日

登録日 平成五年二月二六日

商標を使用すべき商品 第二〇類 灯ろう、その他本類に属する商品

2  本件実用新案

(一) 本件実用新案の登録請求の範囲は、別紙実用新案公報に記載のとおりである。

(二) 本件実用新案の構成要件を分説すれば、次のとおりである。

(1) 通気孔部を略中央部に有する笠部

(2) 内部が中空状に形成された胴部

(3) 前記胴部に連設された台座部

(4) 前記胴部の側面に形成された中空部に連通する開口部

(5) 前記開口部に覆設される脱着自在のカバー部

(6) 前記開口部周囲の胴部と前記カバー部との間隙で形成される空気流入部

(7) とを備えたことを特徴とする墓前用石造ローソク立て

3  債務者は、平成元年九月ころから別紙物件目録記載の墓前用石造ろうそく立て(以下「イ号物件」という。)を自ら製造し、あるいは韓国の業者をして製造させたイ号物件を輸入したうえ、平成六年一月三一日申立外善照寺(以下「善照寺」という。)に対し、イ号物件四本を金三万六〇〇〇円で販売したほか、イ号物件に「防風灯」との標章(以下「イ号標章」という。)を付し、イ号物件を包装した段ボール箱にもイ号標章を付して、イ号物件を販売している。

4  イ号物件の構成及びイ号物件と本件実用新案との対比

イ号物件の構成は別紙物件目録記載のとおりであるが、イ号物件は、本件実用新案の前記2(二)記載の構成要件をすべて充足する。すなわち、その形状がいずれであっても、

① 円盤状でその中央部でその頂上部に円形状の通気孔部を有する笠部であることによって、要件(1)を充足する。

② 胴体部の内部が中空状であることによって、要件(2)を充足する。

③ その胴体の下部に連続する円盤状の台座部を有することによって、要件(3)を充足する。

④ それをろうそく立てとして使用するために所望の場所に設置した場合には胴体の前面として位置することとなる胴体側面部にその胴体の中空部分につながって開口部を有することによって、要件(4)を充足する。

⑤ 右④の開口部に取り外しが自在な合成樹脂製の透明カバーを有することによって、要件(5)を充足する。

⑥ 前記④の開口部を有する胴部の開口部周囲において胴部と右⑤のカバーとに空気流入部としての間隙があることによって、要件(6)を充足する。

⑦ 右①ないし⑥の構成をとり、石材の種類が黄登石又は高興石で造られる墓前用ろうそく立てとして供されるものである点で、要件(7)を充足する。

よって、イ号物件は、本件実用新案の登録請求の範囲内に属する。

5  イ号標章と本件商標との対比

イ号標章は、その名称が「防風灯」であることによって債権者の本件商標と同一であり、かつ、それが使用される商品がイ号物件である点においても、本件商標と同一である。すなわち、

(一) 本件実用新案における考案の名称としての「墓前用石造ローソク立て」とは、ろうそく立ての台部が石造であることをいうのではなく、ろうそく立ての周囲を防風のため、石製の構造物で囲み、その中にろうそく立てを設置するという囲い構造が登録請求記載のとおりの構成要件を特徴とする石造であることをいうのであって、その点では、本件実用新案のみならず、イ号物件も「灯ろう」に他ならない。

また、本件商標権の指定商品は、平成二年八月三一日出願当時の分類に従い、商標法施行規則第三条別表中の第二〇類「屋外装置品」とされるところ、イ号物件と灯ろうとは、①石材製品を製造販売する債務者が灯ろうとともにパンフレットやダイレクトメール等に記載して宣伝広告する点で生産部門の一致性、販売部門の一致性がみられるとともに、②それが石材製である点で原材料及び品質の一致性があり、③墓前の用に供される点で用途の一致性、需要者の範囲の一致性が存在するのであって、これらのいずれをとっても、イ号物件は、第一九類「日用品」としての「ろうそく立て」ではなく、「屋外装置品」としての「灯ろう」であるから、本件商標の指定商品と同一である。

(二) 債務者が使用する標章は、「防風灯」であり、債務者が「石の」の部分を付加していることは、単に「防風灯」との標章が付された商品が石材製であることの品質を、一般的方法で表示しているにすぎないのであって、それが「防風灯」である点についてみれば、外観、呼称、観念のいずれにおいても同一である。

6  被保全権利の存在と保全の必要性

(一) 債権者は、本件実用新案の実施としての墓前用石造ろうそく立て(以下「債権者商品」という。)を自ら製造販売するとともに、債権者商品に本件商標を付して販売している。

(二) 債務者は、平成元年六月ころ、債権者から債権者商品のサンプルを入手したうえ、これと形態、仕様を全く同一にするイ号物件を製造し、その後も、本件実用新案をあたかも債務者自身の考案によるかのように表示し、業として、イ号物件を製造販売し、その所有にかかるイ号物件を占有しており、これまで債権者代理人が内容証明郵便により二度にわたって行った警告状に対し、何らの応答をしないだけでなく、平成六年に入り、債権者商品の価格を大幅に下回るダンピング価格で全国的にイ号物件の販売を開始するに至っており、本案訴訟の判決を待っていては、債務者のこのような意図的、広域的かつ悪質的侵害行為を阻止できず、債権者の本件実用新案権及び本件商標権は市場における実効性を全く失ってしまい、債権者は、回復し難い著しい損害を被るおそれがある。

(三) よって、債権者は、債務者に対し、本件実用新案権及び本件商標権に基づく各差止請求権を被保全権利として、債務者の前記各侵害行為の禁止及び侵害行為の予防に必要な前記申立ての趣旨記載の措置を求める。

二  債権者の主張に対する認否

1  申立ての理由1、2は、いずれも認める。

2  同3のうち、債務者が平成元年九月ころからイ号物件を製造販売している点及び平成六年一月三一日善照寺に対し、イ号物件四本を金三万六〇〇〇円で販売した点は認めるが、その余の事実は否認する。

3  同4は否認する。

(一) イ号物件の構成は、次のように特定すべきであり、本件実用新案の構成要件をすべて充足するものではない。すなわち、

a 上部中央部に円柱形の凸部が形成してあり、当該凸部の中央には円形状の貫通孔が上下方向に貫通している円盤形状の笠部と、

b 内部が中空部に形成された円柱形状の胴部と、

c 右胴部と一体に形成してあり、内部には右胴部の中空部と連通している中空部が形成してあり、当該中空部は下面に設けられた円形開口部と連通している台座と、

d 前記胴部の側面に形成されており、胴部の中空部に連通する長方形状の開口部及び開口部上部に形成されるカバー部の取着部を兼ねた空気流通孔と、

e 前記開口部周囲の外面に当接して覆設され、実質的に前記開口部を閉塞し、下部には空気流入のための小孔が水平方向二か所に形成されている、着脱自在な透明プラスチック製のカバー部と、

f 前記台座部の円形開口部の略中央部に木片等の固定部材を介して固定してあり、円形開口部の内径よりも径小な外径を有する円柱形状のろうそく立て載置台と、

g ろうそく立て載置台の外周面と前記円形開口部の内周面との間に形成されている空気流通口と、

h 前記台座部の底面に形成してあり、前記空気流入口に通じる空気導入孔と、

i 前記ろうそく立て載置台に載置してあり、前記空気流入口を塞がないよう対向して切欠部が形成してある基台を有するろうそく立てと、

j 以上の構成からなる石で造られたろうそく立て。

(二) イ号物件においては、本体とカバー部との間に空気の流入を目的とした隙間は設けておらず、そのための構造は別に用意しているのであって(右(一)記載d、e、g、h、i)、この点からも本件実用新案の構成要件(6)を充足しない。

4  同5は、いずれも否認する。

(一) 本件商標を使用すべき商品は、「第二〇類灯ろう、その他本類に属する商品」であるのに対し、イ号物件は、第一九類「ろうそく立て」に属するものであり、両者は特許庁作成の「類似商品審査基準」においても類似品とされていないばかりか、イ号物件は、神社仏閣等の常夜灯として用いられるものでも、装飾用として用いられるものでもなく、また、建築用商品でもないから、「灯ろう」ではなくて、「ろうそく立て」であり、債務者もダイレクトメール等においては「ローソク立て」として表示しており、したがって、イ号物件と本件商標の指定商品とは、商品としての同一性、類似性が認められない。

(二) 本件商標は、「防風灯」であるのに対し、債務者が使用するイ号標章は、「石の防風灯」であり、両者は商標としての同一性、類似性が認められないうえ、債務者が使用する際の「防風灯」の商標は、商品の効能あるいは用途を普通に用いられる方法で表示しているにすぎないから、このような場合、本件商標権の効力は及ばない。

5  同6の(一)は不知。

同(二)のうち、平成元年六月ころ、債務者が債権者から、債権者商品のサンプルを入手した事実は認めるが、その余は、いずれも否認し、争う。

同(三)は争う。

三  債務者の主張

1  本件実用新案権の無効性

(一) 本件実用新案の特徴は、「開口部周囲の胴部とカバー部との間隙で形成される空気流入部を備えている」ことにあると解されるが、この点の記載は、債権者が当初、出願した際の明細書又は図面にはなく、平成三年八月一九日提出した手続補正書において新たに追加してなされたものであり、このことは、本件明細書の要旨を変更する意味を持ち、したがって、本件実用新案の出願は、当該補正部分については、右手続補正書提出のときにしたものとみなされるから、債務者が債権者から右補正書提出の日の前である平成元年六月ころ、債権者商品のサンプルを入手し、本件実用新案に関する情報を得た時点において、本件実用新案はすでに公知公用のものとなっており、右出願とみなされる時点においては、何ら新規性、進歩性がないものとして、無効原因を有している。

(二) 債務者は、平成六年四月八日特許庁長官に対し、本件実用新案につき、右無効原因を理由にして、登録無効を求める審判を請求しており、これにより、本件実用新案が無効になる蓋然性は大きい。

2  被保全権利及び保全の必要性について

右1記載のとおり、本件実用新案につき、債務者がすでに無効審判請求を提起しており、これが認容される蓋然性が大きく、少なくとも、それが認容される可能性がないとはいえないから、このような場合、仮の地位を定める仮処分である本件仮処分については、被保全権利の疎明がないというべきであり、また、保全の必要性を欠くというべきである。

四  債務者の主張に対する債権者の反論

本件実用新案権の無効性について

1  実用新案の出願手続においては、そもそも要旨の変更にわたる補正をすることは許されず、また、本件実用新案の出願手続において、債権者が要旨の変更をした事実もない。

2  実用新案権は、それがいったん登録されれば、仮にそれに無効事由が存在したとしても、実用新案法所定の審判手続による特許庁の無効審判が確定しないかぎり、当然有効なものとして取り扱われるべきであって、当該実用新案権についての侵害訴訟の審理において、裁判所がこの点を先決問題として独自にその無効性を判断することは許されない。

第三当裁判所の判断

一  申立ての理由1、2は、いずれも当事者間に争いがない。

二  同3のうち、債務者が平成元年九月ころから、イ号物件を製造している事実及び平成六年一月三一日善照寺に対し、イ号物件四本を金三万六〇〇〇円で販売した事実はいずれも当事者間に争いがなく、右争いのない事実及び証拠(甲五の1、2、六の1、2、七の1、2、八、一〇の1ないし16、一二、一五、乙三)によれば、同3の事実を一応認めることができる。

三  イ号物件が本件実用新案の登録請求の範囲に属するか否かについて

1  イ号物件の特定について

実用新案権の侵害訴訟における侵害の成否の判断にあたっては、「実用新案登録請求の範囲」、すなわち、クレームに記載された必須の構成要件と、対象物件たるイ号物件とを対比し、対象物件がそれらの要件をすべて充足して、内容に同一性があるかどうかを検討すれば足りるから、債権者に要求されるべき対象物件の特定については、債権者の有する権利内容と対比できる程度にその内容が特定されていれば十分であり、それ以上に、対象の細部の構造に至るまで、これを表現する必要はないというべきである。

これを当事者間に争いのない本件実用新案の構成要件(1)ないし(7)に即して検討するに、債務者は、イ号物件の構成は前記aないしjを要素として特定すべきであると主張するが、債務者の指摘するaないしjのうち、fないしiについては、いずれも本件実用新案の構成要件とは直接関係のない事項であり、かえって、これを本件実用新案についての実用新案公報(甲一、別紙実用新案公報はその写し)の「考案の詳細な説明」に記載された実施例及び図面第1図ないし第4図に照らしてみれば、それらはいずれも実施例の一つというべきであるから、これらfないしiをもってイ号物件の特定に必要な要素とみることはできない。

そして、右の点及び証拠(甲五の2、六の2、七の2、八、一〇の4ないし16、一二、乙三)から認められるイ号物件の存在、形状等に鑑みれば、イ号物件の特定に必要な要素は別紙物件目録記載の程度で足りるものと解するのが相当である。

2  本件実用新案の構成要件とイ号物件との対比について

(一) 証拠(甲一、五の1、六の1、一二の1)、とりわけ、甲一の「考案の詳細な説明」の記載及び同各図面によれば、本件実用新案の構成要件(1)ないし(7)のうち、イ号物件が構成要件(1)ないし(5)及び(7)を充足することが認められる。

(二) 構成要件(6)について

1. 右実用新案公報の「考案の詳細な説明」中の各記載に照らせば、本件実用新案の要点は、ろうそくの炎によって生じる上昇気流に着目し、周囲を囲んだろうそく立ての内部に隙間を設け、そのドラフト(通気、通風の意)効果により、ろうそくの炎を完全燃焼させるとともに、壁内等にすすがつかないようにする点にあると解されるところ、構成要件(6)の「前記開口部周囲の胴部と前記カバー部との間隙で形成される空気流入部」とは、実施例によれば、カバー部の上部に位置する係止片をカバー係止部である小孔に係止することにより、一方で、カバー部が胴部から脱着自在となるとともに、他方で、カバー部の底辺部分を中心として、カバー部と胴部との間に間隙を形成することになるものであり、この点は、実施例中の次の記載からも明らかである。

「空気流入部は開口部周囲の胴部とカバー部との間隙で形成される。

空気流入部からの空気の供給は、ローソクの炎の上昇気流を助けドラフト効果によりローソクの完全燃焼化を助長することができる。

(中略)

又、胴部の開口部の上部にカバー部上部の係止部材を係止する係止孔を設けると、カバー部の係合が簡単でかつ確実に開口部を覆設できる。又、係止孔はドラフト効果を高めるので、ローソクの炎を完全燃焼させ、ススが壁内に付くのを防止することができる。」

2. しかるところ、イ号物件におけるカバー部の胴部への覆設方法もまた構成要件(6)と同じく、カバー部の係止片による係止方法によっており、これにより必然的にカバー部の底辺部分を中心としたカバー部と胴部との間隙を生じることになり、それが実質的に空気流入口としての機能をも有することは否定できないから、現にこのような方法が採られている以上、イ号物件は、本件実用新案の構成要件(6)を充足することになるというべきである。

3. なお、債務者は、イ号物件においては本体とカバー部との間に空気の流入を目的とした隙間は設けておらず、そのための構造は別に用意しているというのであるが、債務者の主張するd、e、g、h、iのうち、g、h、iについては、前記のとおり、イ号物件と本件実用新案の構成要件との対比に必要な要素ではなく、また、d、eについても、他の点において、すでに構成要件(6)を充足することが認められる以上、それらが存在することにより、構成要件(6)が充足されないことになるとはいえないから、いずれにしても債務者の主張は理由がない。

4. よって、イ号物件は、構成要件(6)を充足する。

(三) したがって、イ号物件は、本件実用新案の構成要件(1)ないし(7)をすべて充足するから、本件実用新案の登録請求の範囲に属することになる。

四  イ号標章と本件商標との同一性、類似性について

1  前記二記載認定のとおり、債務者はイ号物件を製造し、これにイ号標章を付すなどして寺院等に販売しており、これに証拠(甲三の1、2、五の2、六の2、七の2、八、一〇の1ないし16、一二、一五、乙三)により認められる、債権者が本件商標を付した債権者商品を製造販売している事実並びに債権者商品及びイ号物件の各構造、材質、用途、販売先等に鑑みれば、イ号物件と本件商標を使用すべき商品とは同一又は類似するというべきであり、また、イ号物件は、墓前用のろうそく立てとして用いられるべき「屋外装置品」としての「灯ろう」であると解さざるを得ない。

2  そして、「石の防風灯」として、単に「防風灯」の標章に「石の」の語を結合して用いるだけでは、外観、称呼、観念の各点に照らして、イ号標章と本件商標とが同一又は類似するとの評価を免れない。

3  よって、イ号標章と本件商標とは、同一であるというべきである。

五  本件実用新案権の無効性について

本件実用新案の出願手続において、債権者が要旨の変更にあたる補正をした事実を認めるに足りる疎明はなく、この点で、債務者の主張は前提を欠くが、仮に、その点は措くとしても、本件実用新案権については、未だ特許庁による確定した無効審判は存在せず、したがって、裁判所としては本件実用新案権の侵害の有無を内容とする保全事件においても、それが有効であることを前提として取り扱うほかないから、債務者の主張は理由がない。

六  保全の必要性について

1  右認定事実及び証拠(甲五の2、六の2、七の2、八、九の1、3、一一、一三の1、2、一五)によれば、債務者が債権者商品に比較して、より低廉な価格で全国的に本件実用新案の登録請求の範囲内に属するイ号物件を製造販売し、現在も右販売行為等を継続している事実が一応、認められる。

2  そうすると、たとえ、債務者による本件実用新案についての登録無効審判の請求がなされていることを考慮に入れても、本件においては、債権者の被保全権利の存在とともに、保全の必要性があるというべきである。

第四結語

以上によれば、債権者の本件仮処分命令の申立ては理由がある。

(裁判官 河田泰常)

物件目録

A型は高さ三五〇ミリメートル、B型は高さ三二五ミリメートル、C型は高さ三〇〇ミリメートルとし、

その素材として用いられている石が黄登石、陰城石、高興石、栄州石のいずれかであって、

① 円盤状でその中央部でその頂上部に円形状の通気孔部を有する笠部、

② 胴体部の内部が中空状である円筒状をした胴体部、

③ その胴体の下部に連続する円盤状の台座部からなる墓前用ろうそく立てであって、

④ ろうそく立てとして使用するために所望の場所に設置した場合には、胴体の前面として位置することとなる胴体側面部にその胴体の中空部分につながって形状が長方形である開口部を有し、

⑤ 当該胴体の開口部に取り外しが自在な合成樹脂製の透明カバーを有し、

⑥ 開口部を有する胴部の開口部周囲において胴部と取り外しが自在な前記合成樹脂の透明カバーとに空気流入部としての間隙がある墓前用石造ろうそく立て

標章目録

「防風灯」として表示される標章

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